さまざまな現場において、既存の機械装置に対する点検や整備のために、動力制御盤を直接監視したり、その動作を点検したりすることに割かれる工数は非常に多いもので、管理拠点の一元化や管理コストの省力化に対して非常に大きいボトルネックとなっています。機械装置の点検に機械(ロボット)を用いるのはいささかナンセンスともいえるかもしれませんが、人の入りにくい場所での管理業務や、山村などの非常に遠方となるところでの管理業務に対して、ロボットやセンサを常駐させ、Internet of Things (IoT)として扱うことは、一元化・省力化に対して非常に大きな貢献をするものであります。
会津大学では、こうした既存のIoT技術にロボット技術を附加させ、Internet of Robots(IoR)として研究しています(図1)。古い機械機器をそのままIndustry 4.0やSociety 5.0と呼ばれる『ICT化』にアップグレードできる技術として、既存の機械装置を破壊しない、非接触ないし『ポン付け』のロボットシステムによって、クラウドを用いた多拠点ロボットシステムを構築しています。
本項目では、そのための一例として、福島県猪苗代町で活動している『アクアクルー株式会社』とともに、農業集落排水処理施設や、地域にあるマンホールポンプ室に対して、お手軽簡単にICT化するIoRロボット(図2)及びアプリケーションの開発を行っています。

図 1クラウドを介したInternet of Things, RobotはThingsのひとつ
図 2 我々の提唱するクラウドロボティクスの形

動力制御盤のための遠隔スイッチロボットと画像処理システムの開発

会津大学 矢口勇一
アクアクルー株式会社(福島県猪苗代町)

背景と目的

本システムは、2013年に会津大学と共同研究で発表された『農業集落排水処理施設に対する遠隔監視システム』を用いて、ロボットコンポーネントをIoR化することで『監視』のみのシステムから『遠隔管理』を行うことのできるシステムへとアップグレードするものです。
既存のシステム(図3参照)では、動力制御盤の上部に配置されたWebカメラを用いて盤面を監視し、画像処理によって動力制御盤に表示されている表示機の色を認識して、それをクラウド上にアップロードし、遠隔からでもどのような状況になっているのかを把握できるようなシステムでした。日々の運転状況の報告にはこれで十分ではありますが、当該システムは2週に1回以上の法定点検が義務付けられており、スイッチの動作による機器類の動作点検を行う必要がありました。そこで、2019年の開発として、横に並んでいる数個のスイッチを認識し、1つのロボットで複数のスイッチを制御できるスイッチロボットを考案・開発し、クラウドから実際に動作できるシステムを目指して、そのスイッチロボットを、OpenRTMを用いて開発しました。

図 3 遠隔スイッチロボットと画像処理システムの適用先

アナログメーター認識コンポーネント

プラントで用いられている動力制御盤には、動作負荷の監視のために、アナログメーター等で電流・電圧や、気圧などの監視が行われている。また、デジタルメーターでは、いくつかの推移やカウントなどが掲示されています(図4)。デジタルメーターは場合によってはデータを直接取得することができるので、非破壊や線の結合がないようにシステムを構築するには、特にアナログメーターの認識が必要で、かつ、定期的なメンテナンスでの動作チェックでは、この部分の応答の点検が必要なので、遠隔で行う場合はメーターの認識コンポーネントが必要となります。
本年はこのメーターの認識コンポーネントの開発を行いました。この認識コンポーネントは、角型、丸形両方に対応できるものであり、作成されたコンポーネントは単一のものです。しかし、このコンポーネントを並列で立ち上げ、先に画像処理を用いたメーターの抜出部分を組み合わせれば、複数メーターの認識を同時に行うことが可能です(図5)。

図 4 農業集落排水処理施設の動力制御盤に利用されているメーター類
図 5 アナログメーターの認識結果: 作成したコンポーネントは単一だが、画像処理によるメーターの抜出を組み合わせて、複数メーターの認識を同時に行える。

スイッチロボットの開発

遠隔検査を行う場合、現地のスイッチを変更する必要があります。このための動力として、スイッチロボットを開発しました。スイッチの形状としては、ツマミを45度, 0度, -45度にそれぞれ回して変更するタイプのスイッチと、押しボタン式のスイッチを念頭に置いている。図6は、スイッチをつまむ部分の機構と、その試作を掲示しています。
このタイプのスイッチロボットは、既にIoTを用いた鍵のスマート化などで利用されておりますが、今回は横一列に並んでいるスイッチをカバーできるような形にして、移動させながらのロボットの再利用を行うことを提案しました。

図 6 スイッチ旋回部分の機構
図 7 スイッチロボットの設計(Virtual)とプロトタイプ作製(Real)

図7は、スイッチロボットを実際にAutodesk Fusion 360を用いて設計し、その設計された結果をVirtualなオブジェクトとしてレンダリングしたものと、実際に3Dプリンタと既成パーツを組み合わせて作製されたプロトタイプの写真です。何度か3Dプリンタで生成されるサイズの違いなどがあり作り直しがあったが、概ね良好にプロトタイプを作成することができました。

作製されたプロトタイプの映像は以下の通りです。

まとめ

本年度は、遠隔管理のためのツールとして、画像処理によるアナログメーターの認識コンポーネントと、スイッチロボットを作製しました。これらを用いれば、遠隔での点検等が行えることが期待できます。その他、ネットワーク等システムの問題などがまだ横たわっているため、それらについて、2020年では、実際の現場で使えるようなシステムにするべく、研究を行っていきたいと考えています。

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